第6章 型にはまった感情
羞恥心は欠片もないが、自制心はきちんとある
上司に向かって己の欲を吐き出すなんてことは決してない
今までのように割り切った関係の男性を呼べばいいのだが
レオが居候している間に
待っている人がいるという、家の居心地の良さに
連絡を全て切ってしまっていた
外の走り抜けるライトを眺めていると
窓に映る自分の姿が移る
自分でも驚くほど劣情を抱いだいた表情に
待っててくれる恋人でも作ろうかな、という気分にもなる
停止した車に、事務所に着いた事に気づく
スティーブンはシートベルトを外し身を乗り出すと
名前の頬に優しく手を添え
ふっくらとした唇の形を確かめるように
親指でなぞる
「いいかい?」触れるか触れないかの距離で呟く
名前はクスクスと笑いながら
優しく頬を撫でる手を掴み
『お休みなさい、スティーブンさん』
頬に口付け別れを告げる
「誘われてると思ったのにな」
残念と、肩をすくめるスティーブンに
先ほどの自分の表情を思い出し
くすっと笑い
『気を使わせてすいません
ボスのお手を煩わせる訳にはいかないですから』
車を降りおやすみなさいと軽く頭を上げる
気を使ったわけじゃないんだがと思いながらも
それ以上引き止めずに
「おやすみ」
と軽く手を挙げ車を走らせた。
その車を見送りながら
名前は先ほどまでスティーブンの触れていた唇に
そっと手を当て
いつものピンヒールを鳴らしながらライブラの事務所に
入って行くのだった