第5章 艶然とした狂気
『あら、スティーブンさんからのお誘いなら断るわけにはいかないですね』
「それって口説いてる?」
『まさか、スティーブンさんみたいな伊達男に私は釣り合えませんよ』
恐れ多いです。と微笑みながら首に回された腕を払いのけ
ソファを立ち上がりハイヒールを鳴らす
『チェインも週末はいつも飲みにいってるじゃない』
珍しく二人並んで不貞腐れている犬猿に近づきながら
チェインの頬に手を添える
ね?と名前が首をかしげると
気持ちよさそうに手に擦り寄る
「次は、俺はまだかよ」
自ら催促を始めるザップに背を向け
帰宅の準備を始める名前
「ざまあ」
「おいコラ聞こえてんぞ!雌犬!」
スティーブンさんと皆に挨拶をし
僕の方にニコリと微笑むと
『それじゃあ、レオ今日はそんなに遅くならないと思うけど
先休んでてね。』
今日は疲れたでしょ?とソファに座る僕の目線に合わせる様に
少しかがみながらふわりと頭に手を乗せ気遣いの言葉をかけてくれる。
今日はもう少し名前と話したい。
そんな気持ちが
「そんなはっきり言われると、
帰さないわけには行かないじゃないか」
肩をすくめ名前に笑いかけるスティーブンさんに
名前はクスクスと笑いかけ
『それじゃあ、行きましょうか』
また明日、ヒラヒラと手を振りながら
自然に腰に手をあてリードするスティーブンさんの様になった姿をみながら
先ほどまで喉に出かかっていた気持ちが下がっていくのを感じた。
「残りもん同士、飯でも行くか!」
2人の出て行った扉を見つめていると
ぐいっと首にザップの腕が回る
「少しだけですよ」と、ザップの誘いに安堵する
1人で名前の家に帰るのは気が重くて仕方がなかった。
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事務所の近くにある庶民的なバルに付き
店の奥ばった席に座ると
珍しく隣に、チェインの姿もある
「教えてあげるわ、大人の世界」
もうすでに机の上にはショットのグラスが倒れており
2人なりに気を使ってくれたのかとも思ったが
これは完全に自棄酒だ。
僕を挟んで隣で口々に喋り
たまに罵声を飛ばしあい
そんな騒がしい時間に気づいたら日が回りそうな時間になっていた。
「ほら2人ともそろそろ帰りますよ。」