第8章 再会、そして
「クルタ族…」
わずかに空気が揺らぐ。
生暖かい風が吹き、ルカの長い黒髪をふわりと巻き上げる。
しかし、空気が揺らいだのは風のせいだけではない。一瞬だけ、ルカのオーラも揺れた。
それに気付いたのは、その場ではただひとり、
ピチチチ……
ルカの足元から飛び去った、1羽の小鳥だけ。
「4年前、クルタ族は盗賊グループである幻影旅団に皆殺しにされた。
感情が昂ると瞳が燃えるような緋色になる、このクルタ族固有の特質『緋の眼』が原因だ。
幻影旅団を捕らえ、仲間達の目を取り戻すこと。それが私のすべてだ。
生きる目的と言っていい」
静かな語り口と双眸が
クラピカの決意を教える。
「だから、私は幻影旅団を探しているのだよ」
「そう、なんだね…」
なんとか声を震えさせず応えたルカ。
彼女の黒曜石の瞳は、動揺の色を刻むことはなかった。
……なかったが、表情を変えず、頭はフル回転している。
(クラピカがクルタ族…クモの、敵。
じゃあ私も、クラピカの敵?
いや、私は団員じゃない。
…でも、そんなのクラピカには関係ない)
「9月1日って半年以上先だね」
「ヨークシンシティで何かあんの?」
「世界最大のオークションがある!
…旅団(ヤツら)が来るのかな」
「かもな。少なくとも関わりの深い連中はごまんと来るだろう」
(行くよ、クモは行く。
暇なヤツはヨークシンシティに集まれって、クロロからメールがきてたもん。
…って、クラピカに情報流すなんて、ヒソカは裏切る気?)
ゴン達の会話を拾い、考えるべきネタの多さに目眩を感じる。
ルカは人知れず汗ばむ額に手を当て、作った影の下で、ぎゅと目をつむる。
哀しくも美しく緋の眼が光る。
ホームには逆十字の墓標、無数の蝋燭。
帰って来なかった懐かしい顔。
思い出される4年前の光景は、ルカにとっても辛いものだ。
(…ダメ、考えがまとまらない)
ルカが己の処理能力に絶望しかけた、その時。カバンを肩にかけ直し、クラピカが振り向いた。
「では、私はここで失礼する」
「えっ?!」