第8章 再会、そして
「っ……いい加減にして!
無駄なの、わかるでしょ!!」
燕尾服の少女が顔を歪めて叫ぶ。その頬はゴンの血でところどころ赤く染まっている。
攻撃しているのは少女の方だというのに、その声は苦痛に震える。
この数時間、少女は何度ゴンを吹き飛ばしただろう。
何度殴られようと、ゴンは諦めない。
受けたダメージ分、重くなった足取りで、変わらず境界線を越えようと進んで来る。
「あ、あんた達も止めてよ!!
仲間で……」
「「「………」」」
仲間が無為に殴られ続けているというのに、他の3人は止めようとしない。顔色ひとつ変えない。
(…な、なんなの、こいつら)
主人の命令に従う冷徹な従僕……その仮面を被り続けることが難しくなってきた少女。
ルカの意識は目の前の少女から、すでに別の対象へと移っていた。
(………見られてる。
オーラの感じからして、キルアの家族、かな。神経質そうなところが、よく似てる。
……たぶん、2人とも)
キルアの銀色のオーラを思い出しながら、ルカは少しだけ緊張している。いま、この場で戦闘になったら…間違いなく、あの2人が強者だ。
見事な絶で、ルカですら確実に2人いると断言することが出来ない。
幻影旅団に慣らされたルカですら。
つう…と、頬を汗が伝う。
(流石ゾルディック…ってところか
ゴン、クラピカ、レオリオ、それと…
こっちは4人いる。
対応できるかな)
「君はミケとは違う」
人知れず緊張を強いられているルカをよそに、ゴンが腫れ上がった顔で、燕尾服の少女に話しかける。久しぶりに聞くゴンの声は、そこにいる全員の耳によく届いた。
「キルアの名前を出したとき、一瞬だけど目が優しくなった」
「!」
燕尾服の少女は目を見開く。
そして、その目でゴンの真っ直ぐな瞳をとらえると、何かを耐えるように身体を震わせ、
ぽろり、とこぼした。
「……お願い
キルア様を、助けてあげて」
パン!
乾いた銃声が、少女の声を切り裂く。
そして、
銃声よりも一瞬先に、ルカは地を蹴っていた。