第6章 最終試験
ザッ……!
自身とゴンの間の狭い空間に、長い黒髪が舞うのを捉え、イルミは目を見開く。
掴まれたのとは逆の手で、ゴンに触れようとしたのだが……突如乱入してきた少女によって、その行為は阻まれた。
「ルカ!」
「下がって、ゴン」
得体の知れない空気を感じ取り、身を引こうとしたゴン。彼を庇うカタチで、今度はルカがイルミと対峙する。
「………ルカ、危ないだろ」
「こっちのセリフだと思うけど。
それに『それ』はルール違反でしょう」
「…………」
「それ」と顎で示された手をとりあえず下ろし、イルミは己の腰ほどの身長しかない少女と、その足元に落ちた数本の黒髪を見やる。
それは綺麗に切り揃えられたルカの前髪、だったもの。
………イルミのオーラに焼かれたのだ。
まさか練もせず割り込んでくるとは思わなかったため、手を止めるタイミングが間に合わなかった。
(俺だったから良かったものの)
イルミが並の使い手なら、少女の首から上はなくなっていただろう。
「キミってさ」
変わってるって言われない?
と、イルミにだけは言われたくないセリフが吐かれるはずだったが………それは最後まで聞かずにすんだ。
「さて諸君、よろしいかな?」
飄々としたネテロの声が響いたからだ。
一触即発状態にあった3人の注意を引き取って、ネテロが噛んで含ませるように言う。
「他人の合否を云々言っても、我々は決定を覆すつもりはない。つまり、キルアの不合格は変わらぬし、お主達の合格も変わらぬ。
ほれ、そこの3人もそろそろ気が済んだじゃろ」
ネテロの言葉が終わるか否か、というタイミングでルカはゴンの手を取って最後列に移動してしまう。
「ルカっ、ちょ、ま…」
「いいの。こっち座ろう」
しばし2人の方を凝視していたイルミも、ふい、と席に着いた。
「コホン!
それでは説明会を再開します」
ぽてぽてと可愛い足音をさせて、壇上、マーメンが新ハンター達への講習を再開させた。