第6章 最終試験
「な…んだよ、コレ」
レオリオの呟きに、誰も、返す言葉を持ち得なかった。
目の前の戦闘に、一同、瞬きをする暇もないのだ。
中央の床に影が落ちたと思えば、
向こうの壁に打撃跡が散る。
天井のシャンデリアを揺らした瞬間、
立会人の背後で激しい音が響く。
バチッ
ルカの放ったパンチを、ヒソカが片手で止めた音だった。
止めた拳を掴んだまま腕を振れば、少女の身体は容易く宙を舞う。
しかし、その身体は空中でクルリと回転し、猫の身軽さで床に着く。
着くや否や、床を蹴ったのはどちらが先だったのか。感知できたのは、この会場に集まった者といえど全員ではなかっただろう。
10分程の攻防の末、2つの影が会場の中央に戻ってきた。
「………」
「……♥」
わずかに息を乱す程度だが、ルカに消耗の色が見えた。
体格差を考えれば、当然ヒソカに体力的アドバンテージがある。
(長引くと不利。
だからといって、作戦なしの速攻でどうにかなる相手じゃない)
「キミを休ませるつもりはナイよ♥」
「!」
ルカが気を逸らした一瞬、
抜け目ない奇術師が手数を増やして攻撃を仕掛ける。
パパパパ……!
今度は双方足を止めて、上半身のみのボクシングのような攻防が繰り広げられる。
「っ……」
「まだまだ◆」
ババババ……!
ギアを上げたヒソカの両手を、ギリギリで防いでいくが、
ビッ……ビッ
かわしきれなかった攻撃が、少女の衣服や肌を傷付けた。
「~~っ、おい!
ルカが押されてねぇか?!」
「ああ…」
凄まじい速さの手刀を受け、ついに傷を負うようになったルカを見てレオリオが叫ぶ。
頷いたクラピカは眉根を深く寄せる。
不穏な空気を感じ取ったのはクラピカだけではなかった。
他の者も、禍々しく淀みつつあるヒソカのオーラを感じていた。
(血だ。
ルカの血を見てからヤツの気配が一変した。先刻までは冷静さを残していたが……)
攻め続けるヒソカの面は……クラピカが見ても、普段に増して狂気の色が濃い。
(最低限、試合の形式には従うと思ったが……気を付けろ、ルカ)