第1章 邂逅
「……ハイ。最高責任者からのお達しですので、能力の使用はご遠慮ください」
「なるほど。生身でがんばれってこと」
「では、試験開始までこちらでお待ちください」
「は~い」
離れていこうとするルカを、今度はマーメンが止める番だった。
「あの、ルカさん……は能力者だということを隠しているんですか?」
「え?う~ん、隠してるっていうか、
普通の人の真似は家族の中で一番得意かも」
「はぁ、真似、ですか」
にこ~っと笑って、嬉しそうに話す様子は本当に「普通の人」のようだ。
その後は受験生が次々と到着して、マーメンは忙しくなってしまった。
ルカはくるくると立ち回るマーメンと、増えていく受験生の様子を眺めている。
今、番号札を渡された受験生の数字は「16」
会場に到着した順が番号札の数字なのだろう。
(……でも、あれ何百万人分用意してあるのかな?
絶対大変、手伝ってあげようかな?)
そう思ったルカが歩み出そうとした時、
到着したばかりの受験生が彼女に笑顔を向けた。
「やあ!俺はトンパ。
君は新顔だね。ルーキーなのに4番なんてすごいなぁ!
俺は何度も受験してるから、わからないことがあったらなんでも聞いてよ」
「……ありがとう、トンパ?
早速だけど、番号札を配る係の人が1人しかいないけど、何百万人も来るんでしょう?
あの人だけで大丈夫かな」
「(こいつこんなコトも知らねぇのかよ)
いやいや!何百万人ってのは応募者、つまりハンター試験参加希望者の数さ。
実際にこの会場までたどり着けるのは……毎年違うけど、今年は400人位だろうね」
「じゃあ、1人でも大丈夫かな」
「ああ、大丈夫だと思うぜ。
そんなことより、お近づきの印に……」
16番・新人つぶしのトンパはルカの隣を陣取り、今回の小道具「下剤入りジュース」を飲ませることにしたようだ。
トンパを知る他の受験生が、遠巻きに軽蔑のこもった視線を投げやる。
しかし、あえてトンパを止めようとする人間は現れなかった。