第1章 邂逅
……扉の向こうには受験生=強面の猛者がうじゃうじゃいて、
「お前の名前を教えてもらおうか!」
なんて勢いで試験が始まったり、はしなかった。
薄暗い地下道には、ルカを含め数人の人間がいるにすぎない。
彼らは「強面の猛者」ではあったけれど、
一度はこの闖入者に結んだ視線もすぐほどいてしまった。
意気込んでやってきたにも関わらず、
周囲の薄いリアクションに不安をおぼえる。
ここは本当にハンター試験会場なのだろうか?応募者が何百万人もいるはずの?
……しかも、向こうから豆のぬいぐるみ?が近付いて来るし?
(可愛いな、
ぽてぽて音がしそうな歩き方してるな)
なんてことを考えていると、
ルカの前でぬいぐるみが止まる。
瞬間、ぬいぐるみより先にルカが口火を切った。
「私はルカ!
ハンター試験を受けに来たんだけど、
ここが会場で間違いないよね?」
「間違いありませんよ。こちらが番号札です」
ぬいぐるみ、もといマーメンは「4」と記された番号札をルカに渡してくれた。
すぐにその場を離れようとしたマーメンだったが、内緒話のように小声で発された少女の言葉に阻まれた。
「念能力、本当に使っちゃいけないの?
死にそうになってもダメ?」
「! あなた、能力者ですか!?」
「うん」
ぬいぐるみは少女の返答に目を剥いて驚いた。
念能力者のハンター試験参加はままあることである。
しかし、彼らの自儘を許すことは出来ない。為に、能力者には「本試験において、念能力は使うべからず」と釘をさすメッセージが伝えられる。
今、ルカがマーメンの頭上に認めているメッセージがそれである。
能力者だけに伝わるよう、ハンター審査委員会会長・ネテロが自身のオーラを用いてしたためたものだ。
毎年このメッセージを受け取る受験生は数人いるのだが、皆、ネテロのオーラを感じて「凝」をする。そして一様に顔をしかめ、了解の意を表すことになるのだ。
しかし、マーメンにはルカが凝をしたようには見えなかった……