第4章 三次試験
ピンを全て抜いたギタラクル、もといイルミの顔は猫目のすっきりした造作で、改めて教えられた名前にも、年齢にも、好きな食べ物にも、違和感は感じなかった。
けれど……この男はいきなり何を言い出したのか。
ルカは自身の短いながらも濃厚な人生を鑑みて、なんとかイルミの思考回路を追ってみる。
「え~と、本名と素顔を見せてくれたんだよね。それと、さっきの私の質問に答えてくれた……ってこと?」
「うん。俺、ルカのことまだ見くびってたみたい」
イルミはルカの一連の動きをつぶさに観察していた。
イルミが標的との距離を縮めようと跳躍した、その影から、彼女は身を低く保ちながら走り抜けた。長身のイルミが飛べば、自然と人間の視線は彼に向く。そのコンマ何秒の隙に、軽い身体を活かしたスピードでもって、標的の背後に回り込むことに成功した。
あとはイルミの仕事が済むのを待ち、「降参」と言わせるセリフを聞かせるだけ。
もちろん、人体の急所である頸動脈を凶器で押さえながら………
自分がこの子と同じ歳に、同じことが出来たか否か。イルミは瞬きの間に自問自答してみる。
(多分、ムリ。
俺なら殺しちゃってるだろうし)
「……う~ん。ルカ、君いくつ?」
「11歳!もう少しで12 」
「うちの弟と同い年だ………ホントに驚いたな」
「イルミ、兄弟いるの?! そっちのが驚き!」
(キルより『出来る』子供がいるとは思わなかったな。いや、念を覚えればキルが上か………)
そんなことを考えて、イルミは仁王立ちで固まってしまう。
それを見てルカは呆れ顔で溜息をつく。「どっかの団長じゃないんだから、考えながら歩くくらいしてよね」などと口内で呟き、彼の腰あたりを後ろから押し進める。
イルミを知る他者が見たら仰天するに違いない。
「はいはい!時間制限があるんだから、次のフロアへ行きますよ~」
「うん。俺の背後に回るのはやめてくれる?」
ずるずると押されながら言うが、「うんうん、そうだよね」とルカは取り合わない。
まだ何か言おうとしたイルミだが、結局はルカのしたいようにさせることにした。