第4章 三次試験
床を蹴って宙を飛んだのはギタラクル。
放物線の頂点に達するところで腕をひと振りし、飛び道具であるピンを数本「的」に向かって放つ。
スパァ・・・ン!
「ぎっ…!」
顔面にピンを埋められて後方に倒れていく試験官は、自分の身に起きた不幸な出来事を認識することもなかっただろう。
そして、もう1人の試験官も……
トッ
「ハイ、少しでも動いたら貴方もああなるよ。イヤなら……」
「こ、降参だ!俺の負けだ…!」
ルカに背後からナイフを突き付けられ、さらには同じ試験官の末期を見せられーー・・・
もう1人の試験官は素直かつ迅速に負けを認めた。
あまりの力量差を見せつけられ、監視カメラの向こう側の反応も遅れているようだ。
しばらくして、マイクから冷静を装った声が響く。
『……OK、君たちの勝ちだ。
だが次のフロアからは開始の合図を待つように…』
マイクが沈黙すると、次のフロアへのドアが現れた。
すっかり萎縮してしまった試験官からナイフを納め、ルカはドアに向かう。
しかし、追ってくるはずの、いや、先に立って進もうとするはずのギタラクルの気配が続かないのに気付く。見ると、彼はまたも首を傾げて少女を凝視していた。
心なしか、先程より傾げる首の角度が深いような……?
「どしたの? 行こうよ」
「……………………………………………………………うん」
長過ぎる沈黙の後、「無視しない」という約束を思い出したのだろう、なんとか返事だけを言葉にした。
そして、何を思ったのか
おもむろに顔中のピンを抜き始めた。
「えっ」
ズルゥ……ヌルッ……グポ……
バキッ、バキバキッ……ペキ……
骨格の限界を超える変形を目の当たりにすると、見ているこっちが痛くなりそうだ。
「うあ~・・・痛そう。平気なの?」
「いや、結構痛いよ。……それと、イルミ」
「?」
「イルミ。俺の本当の名前だよ。
ギタラクルは偽名。
それと、21歳、好きな食べ物は甘いもの、得意なのは暗殺と変装。あとは…ごめん、忘れちゃった」
(なんだ、ピンを抜いたら意外とフツーの顔…………じゃなくて!)
この男はいきなり何を言い出したのか?
何かの暗号???