第4章 三次試験
ピシッ……
空気が硬直する、微かな音。
ルカは笑みを深くして畳みかけた。
「顔を擬態してるのは……
誰かに見つかりたくないから?
今は2人きりだし、外しちゃえば?
また刺せば擬態できるんでしょ」
301番は上目遣いで強い視線を送ってくる少女を、ごく近くから見下ろしていた。
今の今まで無視し続けていたのがウソのような熱心さでルカを探り、そして首を傾げ、続けて言う。
「…驚いたな」
初めて聞く301番の声は、その異様な顔形からは想像もつかない、少し高めの声だった。
「君、念を知ってるの?」
「君じゃない、ルカ!」
「おかしいな…念を使った?」
「あなたの名前を教えてよ」
「うん。俺の能力がわかったのは何で?」
ピシッ…
2人の周囲の温度が…僅か下がったように震える。
答え如何によっては、容赦なく首を刈り取りかねないそのオーラに、ではなく、やっぱり成り立たない会話に、ルカは苦笑せざるを得ない。
なるほど、これは難物中の難物。
ここしばらく、ゴンたち(比較的)常識人と会話をしていたから……久しぶりの感覚に懐かしささえ感じる。
(あぁ、クモっぽいんだ、この人って)
「ねぇ、聞いてるの?」
ピシッ…
焦れた301番の苛立った声に、再度空気が震えた。
とりあえず、一触即発の現状を打破しなければ。
このタイプは意外と猪突猛進。
頭が良いから「どうでもいい」と判断したことはすぐに忘れる。だが往々にして、その「どうでもいい」ことは結構大切なことだったりするのだ。
「ストップ!
今、私を殺したら試験は失格になるよ」
「あ、そうだね。それは困る」
腕を組んで思案顔になる301番に、ルカは今度こそ会話成立の端緒を見つけ、微笑みながらここぞとばかりに持ちかけた。
「もう無視しないなら、種明かししても良いよ?」
「もう無視しない」
お見事、会話成立。
伊達に幻影旅団なんて奇人集団に育てられてない、とルカは心の中でVサインを掲げた(笑)