第3章 二次試験と飛行船
落とされた照明の灯りも、自分の息づかいも、眠ってしまうにはちょうど良い頃合い。
クラピカが目を瞑ろうとしたとき、
ふと、ルカが呟いた。
「・・・ありがとうね」
「?」
礼を言われるなど、クラピカにはまったく心当たりがない。
何のことだかわからない、という表情を向けると、ルカには珍しく躊躇するような素振りを見せながら、足りなかった言葉を続ける。
「さっき、キルアを1人にしてあげた方が良いって、そう言ってくれた」
「・・・・・・」
確かに言った。
でも、それは改めて礼を言われる程のことだろうか?
クラピカは無言でルカの先を促した。
「・・・私、自分が気になるから探し出そうってそればっかりで。
今、キルアがどんな気持ちなのか、なんて考えてなかった」
「・・・・・・・」
「1人になりたい時ってあるよね、それが必要な時もある。そういうの、クラピカに言われて初めて気付いたの。
だから、ありがとう」
そこまで言ったルカは一呼吸つき、毛布の下で体育座りしながら、自分の膝に頭を預けた。
薄暗闇でなお光を集める黒曜石の瞳が不安そうに「私の言葉は届いている?」とクラピカに問いかけてくる。
その煌めきに、一瞬、魅入られたクラピカだったが、自分の思いを懸命に伝えようとする少女の真摯さには、より強く打たれた。
沈黙は言葉の足りなさからくるものと思ったのか、ルカが続ける。
「私、人の気持ちにうとくって。なんていうか、無神経で・・・」
「そんなことはない」
きっぱりとクラピカが言う。
「人の気持ちがわからないのは皆同じだ。
それでもわかろうと努力するか否かに違いが生まれるのだろう。
ルカは無神経などではないよ」
「そうかな?」
「私が保証する」
(だってルカ、君はキルアを傷付けずにすんで良かったと、そう私に礼を言ったのだから)
皆まで言わず、クラピカは「保証する」と重ねて伝えた。
そこまで聞いて、ようやくルカは笑顔を見せた。
「ありがとう、クラピカ」
「どういたしまして」
2人は改めて顔を見合わせ、低く笑いあった。
第3章 二次試験と飛行船 ー完ー