第3章 二次試験と飛行船
「美味しかったね、クモワシのゆで卵!」
「ね!」
ルカとゴンは崖下を覗き込みながら話している。
あの後、試験は急転直下の展開となった。
メンチが唐突に試験終了を宣言したのだ。
「二次試験後半の料理審査、合格者は0!よ!!」
と。
驚いたのは受験生だけではなかった。
審査委員会側も、二次試験で合格者が0になるとは想定していなかったようで、最高責任者・審査委員会会長ネテロ自らが調停に乗り出して来たのである。
結局、メンチは自身の審査結果を覆し、二次試験は続行された。
新メニューは、クモワシの『ゆで卵』
今まさにその審査が終了し、ルカ達5人を含めた42名の合格者が決定したところである。
「ここがクモワシのコロニーなんだね」
「うん、たぶん。
俺達がいるから親鳥は近くにいないみたいだけど」
常人ならば足がすくんで動けないような崖っぷちに立ち、そこいらの子供と同じ顔ではしゃいでいるルカとゴンの姿は……さぞ奇異に映ることだろう。
「おい!2人とも乗り遅れるぞ!」
レオリオの声に、2人は慌てて飛行船に乗り込む列に混じった。
(……?)
会話を交わすゴンとレオリオに顔を向けながら、ルカは自身の背中に張り付く無遠慮な視線を感じていた。
探るでもない
隠すでもない
ひたと己に向けられた視線ーー……
こんなに注目される覚えはないが、視線に混じるオーラは記憶に新しい。
ついさっき、上空ウン10mの飛行船から単独飛び降りてきた彼が放ったオーラと同じものだ。
そう……審査委員会会長ネテロがルカを見ている。
(なんだろう?)
(……ま、いいや。こんな時は、知らんふり)
ゴンとレオリオの会話に交ざりながら飛行船の中に姿を消した、そのルカの影を追うように聞こえたのは……ネテロの楽しげな笑い声であった。
「ほっほっほっ……」