第12章 天空闘技場 vsヒソカ
試合の控室という性質からか、寝起き用の部屋よりずっと簡素な部屋だ。
中央へ進んだルカの頭上にあるのは、無駄に豪華なシャンデリアではなく、ありふれた蛍光灯。
ヒソカが背にする窓辺にも、金糸を織り込んだ重いカーテンなぞはあるべくもなく、剥き出しの窓ガラスが外の景色を、雲ひとつない青空を透過させている。
「「 ……… 」」
目に痛い青空の光の中、
ルカは両腕を身体の脇に垂らして仁王立ち。一方のヒソカは肩をすくめ、両腕を組んで窓枠に身体ごと寄りかかった。
そう広くもない部屋で、2人の距離は約3m。
互いに見合いながら微動だにしない。
窓を背にするヒソカの長身は、ルカがいる場所からはちょうど逆光となり、扉の外から見えていた表情も読めないほど暗い。
もう少し、離れるか、近付くか。
どちらかが動かなければ、ヒソカの表情は真っ暗で読めないままだ。
俯きがちの少女に替わり、沈黙を破ったのは饒舌で鳴らした奇術師だった。
「その様子だと、
団長とは会えたみたいだね♣️
メールが無駄にならずよかったよ♠️」
200階登録の際、問答無用で攻撃してきた彼女の様子からすると、今は大分落ち着いているように見える。
(天真爛漫に見えて、
本来 ルカは頭脳派だからね♦️
……ボク相手とはいえ、
いきなり攻撃してくるなんて♣️)
クラピカの事を知ってよほど堪えたのだろう、と心中では少女の機微を想いながら、ヒソカはククッと頬を歪ませた。
次に自分の言葉が与える衝撃と、少女の反応を想像して。
「それで、ルカ♥️
ボクが幻影旅団を裏切る理由は分かったかい?」
ヒソカの予想に反して、ルカの反応は僅かに顎を上げただけだった。
でも、それで十分だった。
真っ直ぐ見詰めてくるルカの黒い瞳。
2つ揃って在るのが奇跡のような、
人を魅了して止まない大きな漆黒。
こぼれ落ちそうなそれが、現在(いま)は間違いなくヒソカだけを映している。
(嗚呼……
このままボクだけのモノにしたいなァ♥️
キレイなまま、
え、ぐ、り、出、し、て♥️)
ギシリ
舌舐めずりするヒソカに怯え、
部屋の空気が軋んで鳴いた。