第12章 天空闘技場 vsヒソカ
「おいおい、行くって
今行くのかよ……!」
まさかキルアも、試合前のこのタイミングで、とは思っていなかった。
思わず伸ばした右手の先で、長い黒髪は雑踏に揉まれて消えてしまった。
ッチ、と舌打ちをしたキルアは
空をかいた右手を米神にあて、少女を追うのを諦める。
代わりにという訳ではないが、先刻のルカとの会話を反芻する。
(今までのルカなら、俺らに黙ってヒソカに会いに行っただろうな
この前、お灸を据えたから効いてんだなー
いい傾向っちゃ、いい傾向か)
無造作に両手をポケットに突っ込んだキルアは、少女が消えた方へ再度視線を投げる。
……ハンター試験の時といい、天空闘技場(ここ)の200階到着の時といい、ルカとあの性質の悪い奇術師とには浅からぬ因縁があるようだ。
あんなピエロ面の変態と、いつどこで縁を結ぶと言うのか。余人には全く想像もつかないが。
(ま、いいさ。
理由は聞かないでいてやるよ)
「……今は、な」
悪い顔で笑いながら、キルアは悪戯を思いついた、と声を明るくする。
「一人で待つのもつまんねーし、
対戦者(カストロ)の顔でも拝んでくるかな」
メインイベンターの闘士には個別の控室が用意される。特に今日の試合は特別だ。
フロアマスターに最も近い男の対決、そんな風に銘打っているため、興奮した観客が闘士に何をするか分からない……という表向きの理由がひとつ。
もうひとつの裏の理由は、
興奮した闘士が近付く人間に何をするか分からないから、である。
この場合、2人いる闘士のうちどちらが「裏の理由」に該当するかは……皆まで言わずとも、であろう。
それを証明するかのように、眼前の控室からは禍々しいオーラがじっとりと滲み出ている。
禍々しさに混ざる戦闘前の興奮。
相も変わらぬ、本能に従順過ぎるオーラ
(係員が一人もいないなんて。
ヒソカのオーラにあてられたかな…)
ルカは苦笑ひとつこぼすと、控室の扉に緩く握り込んだ拳をあてた。
コンコンコン
「やぁ、いらっしゃい♦️
待っていたよ ルカ♥️」
扉の向こうで迎えるのは、白いピエロの顔。
約1ヶ月ぶりのヒソカは、いつもと変わらぬ声音でルカの名を呼ぶ。