第11章 天空闘技場 約束
クロロは少女の細い首に遊ばせていた指を仕舞い、ルカを解放する。
「必ず倒す、か。俺達に強い恨みを持つ者、復讐者だな。どこの手の者だ?」
「言えない」
「……ほぉ」
ルカの反応に一瞬だけ驚いて見せたクロロだが、構わず質問を続ける。
「では、敵の名前は?」
「言えない」
「敵の性別や年齢は?」
「言えない」
「敵の能力は?」
「分からない」
「……?【不可避の眸(イーグル・アイ)】は使わなかったのか」
「うん」
「「………」」
片腕の肘をソファの背に乗せ、クロロは己の重心を後ろに倒した。
ギシリ、とソファが鳴る。
ルカとクロロの顔が離れ、2人の間に距離が生まれたが、その距離を埋めるかのように、静かな視線が少女を捉える。
つ、とルカは前髪の下に冷や汗を感じた。
(……っ、ヒソカとイイ勝負だよ……!)
彼の奇術師の放つ禍禍しいオーラと比べてもひけをとらない、クロロ独特のオーラ。身体の内側から、鮫肌でザラザラ撫でられているような、そんな何とも言えない感覚に包まれ、流石のルカも身体を強ばらせた。
(でも……)
クロロの本当の恐ろしさはオーラなんかじゃない。
質問に対する回答はもとより、話し方や呼吸、目線、しぐさ、体温、鼓動……あらゆる要素を情報として処理してしまう、その頭脳だ。
長年の経験でそれを知るルカは、しかし、再び眼光に力を宿らせる。
(……私がいくらクラピカの事を隠したとしても、いつかクロロは気付いてしまうだろう。
でも、その「いつか」は、今じゃない)
どの位、2人は固まっていただろうか。
暫くして、
瞬きも忘れたように、少女を見詰めていたクロロは、ゆっくりと口を開いた。
「最後に1つ聞く。
その敵というヤツ。
ルカ、お前の事じゃないだろうな?」
「!! 違う、私じゃない!」
想定外過ぎる言葉に、ルカは長い黒髪が乱れるのも厭わず、ぶんぶんと首を振って否定する。
まったく、何をどう考察するとそんな発想に至るのか。
しかも、クロロは顔色一つ変えない。
「ならいい。
何の問題もない」