第11章 天空闘技場 約束
「ヒソカの裏切り、ね」
「うん。オークションの時期にヨークシンを狙うからには、大きな仕事になるんでしょ?……それを漏らすなんて」
ソファの上で向かい合ったまま、ルカはヒソカの言動を伝えた。しかし、一通り話終えてもクロロの反応は……極めて薄い。
無感動に見詰めてくる瞳と対照的に、ルカは眉間に皺を寄せて苛立つ。
(クモがクモを裏切るかもって話なのに……!)
そんな少女の機微を読み取って、クロロが言う。
「……驚くなり何なりは、全て聞いてからだ。この話、続きがあるのだろう?」
「!」
ドクン、と鼓動が跳ねた気がする。
クロロ相手に隠し立て出来るとは思っていない。だからクラピカの事も、全てではないにせよ、話すつもりだった。だったが……
「『ヒソカの裏切り』は確かにお前の口を重くするだろうが、大きく捉えれば、想定の範囲内だ。
そんな顔を俺に向ける程のことではない」
「そんな顔?」
「そう」
節立った長い指を持つクロロの掌が、ゆっくりとルカの白い頬を包み込む。
「この表情(かお)だ」
ドクン、と今度こそ確実に鼓動が鳴った。
クロロの大きな手は、少女の顔から首までを軽々と覆う。右手の親指はちょうどルカの喉仏辺りを、からかうようにゆるゆるとさすってくる。
「……っ、どんな顔?自分じゃ見えない」
「それは残念だな」
慎重に喉を振るわせるルカの言葉に、ふ、とクロロは口角を上げる。
「何年かに一度、俺の予想を超えるときの表情(かお)だ」
「……何それ」
「俺の好きな顔だ。いいから続けろ」
ルカの顔を右手に収めたまま、クロロは先を促した。
何もこんな……
目を反らすことも、身動ぎも出来ない格好でなくてもイイだろうに……クロロは離してくれそうにない。
仕方なくルカはそのままの格好で続けた。
「ハンター試験でクモの敵を見つけたの。
クモを探し出して、必ず倒すと言っていた」
ルカはクラピカの綺麗な顔を思い浮かべる。そして、噛み締めるように言葉を紡いだ。
「……多分、いや、絶対
今までで、一番手強い敵になる」