第11章 天空闘技場 約束
(なんで)
それでなくても大きな目を見開き、完全にフリーズしてしまったルカを見て、その人は口角を上げる。「そうだ、その表情が見たかったのだ」と言わんばかりに。
(うそ)
「取り敢えず、場所を変えるぞ」
ごった返す店の前で固まるルカに近付くと、少女が両手にさげていた紙袋を抜きとる。更に荷物を預かるかのように、ルカの膝裏に腕を入れて、ふわりと抱き上げた。
(ありえない)
「さて、どこへ運ばれたいんだ?『デコピンのルカ』は」
間近に迫る闇色の双眸、前髪から透ける飾り十字の刺青。天空闘技場での呼び名を揶揄する口調さえ懐かしい。
(っ……!)
抱き上げられて感じた体温に、ルカはやっと彼の人の名を呼んだ。
「……っ、クロロ!」
絞り出した声と共に、ルカはクロロの首に両腕を回してしがみつく。
細い腕がぎゅうぎゅう締め付けてくるのを咎めもせず、少女の頭をポンポンと軽く叩くと、幻影旅団の首魁はゆっくりと歩き出した。
「なんでクロロが天空闘技場にいるの?」
「……どこかの家出娘がなかなか帰って来ないから、様子を見に来たんじゃないか」
ルカの問いに、クロロは心外そうな声音で答える。
ルカと荷物を抱えて、「このままホームへ帰るかな」なんて物騒な事を呟くクロロへ、ルカが猛抗議した結果、天空闘技場200階のルカの部屋になんとか落ち着いた。
(そんなツルッと連れ戻されたら、堪ったものじゃない)
「そーじゃなくて、どうして私がココにいるってわかったの?シャルの追跡?」
ルカは自分の肩越しに首を捻り、背後のクロロに話し掛けている。不自然な格好で首が痛い。
部屋に入るなり、必要以上に豪奢なロココ調のソファに身体を預けたクロロは「お茶でも淹れようか」と立ち上がるルカを捕まえて、己の両脚の間に挟み込んだ。今はクロロに背後から抱えられている状態だ。
「違う。シャルのGPS追跡装置はお前が破壊して出ていっただろう。……ヒソカだよ」
「ヒソカ?!」
今度は首だけでなく身体ごとクロロの方へ向けて捻り、ルカは高い声をあげた。