第10章 天空闘技場 200階の壁
「彼等の念に対し、君達はあまりに無防備だ。極寒の地に全裸で震え、何故辛いのかわかっていないようなもの。今は下がりなさい」
ゴンとキルアの更に後ろ、降りてきたばかりのエレベーターの前から語りかけるのは、ウイングだった。
諭すような声音に、すかさずキルアが反応する。
「あいつが『通さない』と思うだけでこうなるっつーのか?!嘘だろ?!」
「はい。アレは嘘(みたいなもの)です」
「やっぱりか!」
キルアの問いにウイングは事も無げに答えた。しかし、その心中は穏やかならざる状態だと言っていい。
ここに駆けつけたのは、200階の闘いに参加する3人を止める為。その為だけのはずだったのに、目の前の惨状は何事か?!
200階の闘士=ヒソカによる念の洗礼を受けるところ、というのは理解できる。だが、その攻撃を防ぎ、相手に傷まで負わせる能力を持ち合わせているとは……!
ウイングは未だヒソカと対峙し続ける細い背中と、少女によって無惨に破壊された壁を目の当たりにし、人知れず拳を握りしめた。
「……本当の念について教えます。だから、ひとまずここから退散しましょう」
その言葉に応じたのは、ヒソカの方だった。臨戦態勢を解き、その場に片膝を立てて座り込む。
……だが、ルカはオーラを収めようとはしなかった。むしろ力が増すように、パリパリッ、という細かい炸裂音が鳴る。
「……っ、ルカ!」
「おい、ルカ!もう……」
ヒソカ程でないにせよ、ルカのオーラにあてられて、ゴンとキルアは苦しさに眉根を寄せる。
「ルカさん!
これ以上、心身に負担をかけると2人が死にかねないですよ!」
「!」
ウイングの言葉に、ルカの背中からようやっと力が抜る。
ほっとしたのはゴンとキルアだ。
いかにルカのものとはいえ、正体不明の力に晒され続けるのは、正直辛かった。それに、ヒソカを相手にしたルカがまるで別人のようで、どこか……怖かった。
「ルカ、行こう」
「………」
ゴンの呼び掛けに振り向いたルカの目は、常に無い鋭い眼光を宿していた。
ゴンもキルアも、ウイングさえ
その瞳の漆黒に、しばし息を飲んだ。