第10章 天空闘技場 200階の壁
場を犯し尽くす禍禍しいオーラは、床から爪先を伝い、ふくらはぎ、太もも……と、舐めるように少女の全身を包んでいく。
それを承知で、ルカはゆっくりと目を閉じた。
以前のルカであれば、懐かしいとさえ思える慣れ親しんだオーラ。
……しかし、今は違う。
じわり、と胸の内にあの日と同じ感情が滲む。たぶん、猜疑心という名の暗い感情が。
キルアと再会し、ゾルディック家から出発したあの日。
クラピカの口からクモと、彼の名を聞いた。そればかりか、クロロが団員宛てに発信したメッセージすら。
何故洩らした?
何を考えてる?
一体、どういうつもりなの?
彼には聞きたい事が山のようにある。しかし同時に、……何も聞きたくはなかった。クモがクモを裏切る理由なんか、聞きたい訳ないに決まっている。
(でも、確かめないと)
じわり、じわり、と広がる暗い感情。嫌な予感。それらはひとまず横に置いて、ルカは現実と向き合う為、ゆっくりと目を開ける。
ルカの漆黒の瞳が、会いたくて会いたくなかった奇術師の姿を捉える。
……と、ほぼ同時に、ゴンとキルアが声を張り上げた。
「「ヒソカ!!?
どうしてお前がここに?!」」
「♣」
(ヒソカ……)
通路の奥から姿を現したヒソカは、白い面に笑みをつくり、一歩二歩足を動かして止まる。
今も続く無言の圧力。この殺気の塊を生み出し、ルカ達を牽制しているのはどう考えても目の前の奇術師に違いない。なのに、
「君達こそ、何でこんなところにいるんだい?」
いけしゃあしゃあととぼけて見せる。
「なんてね♥もちろん偶然なんかじゃなく、君達を待っていた♣」
「……っ……」
手品師の種明かしのように、得意気に喋るヒソカを前に、ゴンとキルアは更に余裕を無くす。
ちら、とその様子を目の端に捉えたヒソカは、おもむろに右手を突き出す。
「ここの先輩として君達に忠告しよう♥
このフロアに足を踏み入れるのは、まだ早い♠」
そう言い、攻撃とは程遠い仕草でもって、突き出した右手を軽く3人に向けて振った。
ビュオッ……!
「「くっ」」
その仕草一つで、ゴンとキルアは数歩後退を余儀なくされてしまった。