第10章 天空闘技場 200階の壁
とっぷりと夜もふけ、街灯の間を行き交う人々は家路を急ぐ。
0時をとうに過ぎた時間だが、天空闘技場の近くという立地からか、夜歩きの人影は少なくない。ルカ達3人も街灯の下、肩を並べて歩いていた。
ウイングが宿泊しているホテルからの帰り道、沈黙を破ったのはキルアだ。
「……さっきのウイングの話、あれってウソだよな」
「ネンとは心を燃やす『燃』のこと。すなわち意志の強さ」
ルカ達を部屋に招き入れると、ウイングはおもむろにネンの説明を始めた。
曰く、四大行とは意志を強くする過程の修行。
点(テン)で心を1つに集中し、
舌(ゼツ)でその想いを言葉にし、
錬(レン)でその意志を高め、
発(ハツ)でそれを行動に移すー…。
「話はもっともらしいし、現にウイングの力も本物だと思うけど、それだけじゃ説明できないことがある」
「……あの試合の最後、意地になってズシに本気出しちゃったってヤツ?」
ルカの合いの手に、キルアは我が意を得たりと勢い込む。
「そう!あれは意志の強さでどうこう出来るレベルを越えている」
「確かに。キルアの本気を喰らって立ち上がるなんて、ちょっと考えられないね」
「ゴンもそう思うだろ?
……絶対、他に秘密がある!」
だとしたら、何でウイングさんは隠しているんだろうね、とゴンが持ち前の素直さで呟き、キルアが「知らねーよ!」と苛立つ。苛立ちついでに、キルアはルカの方に顔を向けた。
「で!ルカの感想は?
絶対ウソだよな、あれ!」
「ウソだね」
きぱっ!とルカは言い切る。
「「やっぱり」」
「でも、意志の強さ云々も大事だよ。病は気からじゃないけどさ。
だからウイングは『ウソを言った』のではなく、『真実を言わなかった』が正しい……と思う」
自分の経験を言語化しきれないルカは、自信少な気な語尾で答える。
「う~ん」
「……考えても仕方ないよ!
とりあえず、天空闘技場(ここ)にいる間ならウイングさんに聞けるんだからさ、また教えてもらおうよ!」
「……スーパーポジティブ思考だけど、とりあえずはソレしかないか」
ゴンの提案にキルアが溜息混じりの呟きをこぼす。
この時の彼等は「200階の壁」など……知る由もない。