第10章 天空闘技場 200階の壁
結局、キルアがロビーに到着したのはゴンの2時間後。天空闘技場から見下ろす景色もすっかり夜景に変わった頃だった。
「キルア、けっこう時間がかかったね」
「ああ、てこずっちまった。
ズシのやつ、素質あるよ、きっと強くなる。でも今は俺の敵じゃないし、スキだらけで殴りたい放題だった。
……なのに、倒せなかった」
ゴンの問いに答えながら、キルアは唇を噛む。
「それに、ズシが構えを変えたとたん……」
「『兄貴と同じイヤな感じ』がしたんでしょ?」
「「!」」
言い淀むキルアに被せ、ルカが言葉を続けた。ゴンとキルアは弾かれたようにルカを見る。
「ルカ、お前……」
「あ!思い出した!
キルアと会えたら、ソレが何か教えてくれるって約束したよね、ルカ」
「?! どういうコトだ」
言葉で答えるよりも早い、と言わんばかり。
ルカは腕を身体の脇に垂らしたまま、両手を軽く握り、練を行って見せた。
ブオ…ッ!
「「!!」」
ルカを中心に軽く風が舞い上がり、長い黒髪が踊る。
左右のゴンとキルアは目を見開き、辛うじてその場に踏みとどまる。これがルカでなかったら、間違いなく後退っていたに違いない。
風が落ち着くと同時に、ルカはオーラをおさめた。
自然閉じていた瞳をゆっくりと開ける。葡萄のような黒いその眼が、驚きを隠せないでいる2人の表情を映し出す。
そして、おもむろに口を開く。
「この力は念(ネン)という。
イルミも、ズシも、私も、念を使う」
「ネン?
ズシの師匠はレンっつってたぞ?!」
「練も念の一種。念の基本中の基本」
「「………」」
つい先刻まで隣で笑っていたルカが、まるで別人のような気がする。
そんなハズはないのに。
ルカのオーラにあてられたかのように、2人は暫く動くことが出来なかった。