第10章 天空闘技場 200階の壁
早く早く、とせかすルカのもとへ向けられたキルアとゴンの足。その歩を止めるように、一風変わった挨拶が響いた。
「押忍!」
幼さを残す少年の声。
覚えのない声の主を見やれば、そこには白い道着を身に付けた坊主頭の少年がいる。
背丈はルカより少し低いものの、年の頃はそう変わらないだろう。
「自分、ズシと言います!皆さんは?」
「俺、キルア」
「俺はゴン」
「私はルカ。よろしくね」
自己紹介の笑顔とともに、ルカはズシと名乗った少年を探る。声をかけられる直前、一瞬オーラに揺らぎを感じたのだ。
ほんの少しの違和感、念能力者に特有の気配とでもいうのか。
(へぇ、いいオーラ。素直で力強い)
肌で感じるオーラにルカは目を見張る。
しかし、ズシのオーラ量が教えるのは、彼が念を覚えて日が浅いという事実。
これならルカの能力を使う程ではない。
それに……
(近くにもう1人、念能力者がいる。
……こっちはそこそこの使い手かな)
上手く一般人に溶け込んでいるが、ズシに向けた、否、ズシと話すルカ達に向けた視線は隠せないでいる。まぁ、隠す気もないのだろう。
「ズシ!よくやった」
「師範代!」
廊下の奥から顔を出し、ズシの健闘を讃えたのは黒髪に眼鏡をかけた男性だった。
白いワイシャツと濃紺のスラックスというお堅い格好をしている割に、シャツの裾をだらしなくはみ出し、後頭部にはしっかり寝癖をつけている。
ズシに師範代と呼ばれていなければ、とても武術を修めた人間には見えない。
「こちらゴンさん、キルアさん、ルカさんす」
「「「オス!」」」
「初めまして、ウイングと言います」
紹介された3人は一瞬顔を見合せた後、ウイングに身体を向け、ズシを真似て挨拶をして見せる。
その中身を知らないウイングは、子供達の可愛らしい様子に表情を緩める。
「ズシ以外に子供がいるとは驚いたよ。
ここまで来るなら相応の腕があるのだろうが、気を付けるようにね」
「「「オス!」」」
「特にルカさんは女の子なのだから」
「オス!」
中身を知らないというのは恐ろしい。
女の子扱いされ、笑顔で返事をするルカに、ゴンとキルアは複雑な顔をして見せた。