第10章 天空闘技場 200階の壁
「一発KO、気持ち良かったね!
しかも3人そろって」
選手専用エレベーターの中、ルカは上機嫌だ。
それもそのはず。
「お嬢ちゃん、悪いこと言わないからお家に帰りな!」
「運のいい野郎だな~優しくしてやれよ!」
うるさい位の野次を浴びながらの試合。
ルカは観客全員の期待を見事裏切り、大の男を、しかも巨漢の格闘家を片手で吹き飛ばしたのだ。
場外に倒れる男の身体と、涼しい顔でリンクに残る少女。
試合終了を告げられた後も、信じられない、と観客はざわめいた。
「ルカが1番驚かれてたよね」
「子供ってだけで珍しいのに女だからな。
しかもお前、デコピンって!」
ふはっと吹き出しながらキルアがルカを小突く。
「ゴンは押出し、キルアは手刀でしょ?
私も片手の技がいいと思って」
顔の横で手をキツネの形にして、ルカは笑って見せる。
試合開始の合図と同時、対戦相手はルカを体当たりで場外へ吹き飛ばそうと決めたのだろう。
小細工なしの一直線でルカに向かってきた。
その突進を避けようともせず、スッと相手の額に右手を向けた、その時。すでにルカの右手は親指と中指を合わせたキツネの形になっていた。
ピン!
と強い反動で中指が弾かれると、ほぼ同時に男の身体も弾かれていた。
そう、ルカはデコピン一発で勝ったのだ。
「見て見て!
50階も登ると見晴らしいいね~」
エレベーターの扉が開くなり、ルカは窓際へ駆けて行ってしまう。
落ち着きのない背中に「あんま先に行くなよ」と声を投げてから、キルアはゴン相手にポツリと呟く。
「やっぱ、とんでもねぇなルカって」
「え?」
「やられた相手、怪我は軽い脳震盪とたんこぶだけだった。あの巨漢が吹き飛ぶほどのパワーなのに、だぜ?
下手したら首から上が飛んでもおかしくない。
……ありゃ相当、手加減慣れしてるってことだよ」
「!」
「俺は苦手なんだよなー、手加減」
キルアは頭をかきながら、ゴンは改めてルカの凄さを知り、生唾を飲み込みながら。
それぞれ窓際ではしゃぐルカに追い付こうと身体を向けた。