第9章 幕間
ゴウ…ン、ゴウ…ン
飛行船は漆黒の夜空を進んでいる。
寝静まる船室を抜け出したルカは、待合室のベンチで眠れぬ時間をもて余していた。
考えるともなく、クラピカと旅団について思案していた、その時
「眠れねーのかよ?」
足音もさせず声をかけたキルアがルカと同じベンチに腰を下ろす。
「キルアも眠くないの?」
「いや、ルカが出てくのが見えたからさ」
窓に映るキルアの銀髪を見て、ルカはポンと手を打った。
「そういえば私、キルアに言いたいことがあった」
「え、何?」
「ハンター試験失格になった時、ごめんって言ったよね、キルア」
「…っ」
正直に言うと、あの時のことは思い出したくない。いくらイルミに脅されたからって、あの瞬間、キルアはゴンと自分の命を天秤にかけた。挙げ句、自分の命を選んだのだ。
ゴンを、友達を、裏切ったのだ。
「あ、あれは」
「大体話は聞いたけど…謝らなくて良いんだからね」
「!」
「謝らなくても、友達なら怒らないよ!
実際ゴンは全然怒ってなかったし。
私も怒らない。
なんなら、キルアが本当に裏切ったとしても怒らないんじゃない?」
「…どういうコトだよ、それ」
思いもよらない発言に、キルアは改めてルカの目を覗きこむ。
(裏切っても、だって?)
ルカがキルアに向き直ると、長い黒髪がさらりと薄い肩から流れ落ちた。
「裏切るだけの理由があるってことでしょ?
友達ならいいよそんなの」
「…!」
キルアは両目を見開く。
「それより、あんな声でごめんて言われて、もう会えない方が嫌だ!
そもそもイルミがおかしいんだからね、アレ」
続くルカの言葉を聞きながら、キルアはゆっくりと身体の真ん中がほぐれていくのを感じた。
ずっと心に刺さっていた楔が、溶けてなくなったみたいだ。
「もう絶対、友達を裏切らない」そう心に決めて家を出た身としては、拍子抜けもいいところだけど…
(サンキュ、ルカ。楽になったよ)
そう心の中で呟き、くしゃくしゃと近くにあったルカの頭を混ぜ返した。
「あーっ!ちょっとキルア、何するの⁉」
ルカの悲鳴が響く中、キルアは目を細めて笑った。