第9章 幕間
ノート=ブルンボルト
その男は、さして変わった人生を歩んできた訳ではない。
人並みにロクデナシの母親から捨てられ、人並みの辛酸を嘗め、人並みにグレて、数々の犯罪に手を染めた。そして、マフィアの一構成員にまで登り詰めた。
ある日、ノートはいつものように女を騙し、犯し、搾取し、殺し、煙草の吸い殻と共にスラムの裏路地に転がした。
いつもの光景、いつもの行為。
クソ面白くもない日常ではあるが、こんな毎日が延々続いていくのだと信じていた。
…しかし
女の遺体が発見されてから1カ月後の今日、ノートの人生は終わりを告げた。
最後に殺した女の父親が国を代表する一流企業のオーナーだった事。その父親がゾルディック家の顧客だった事。
ありふれたノートの人生で、特筆すべきはこの2点に尽きる。
「ソレが今日の獲物(ターゲット)かい?」
刈りたての生首をさげて戻ってきたイルミに、岩場に腰かけたヒソカが声をかける。
「そう。ノー…なんちゃらっていうチンピラ。依頼者が生首を切り刻んで、頭蓋骨を便器にしたいそうだ」
「ふーん◆」
自分から聞いておきながら、興味なしと言いたげな奇術師は、人差し指に乗せた携帯をクルクルと弄ぶ。
スラム街からも遥か遠く離れた荒野。
大都市に屹立する高層ビル群が、蜃気楼のように眺望できる場所だ。
「そう言えば、ルカと電話で話したんだろ♠……ボクとクラピカについて何か言ってたかい?」
「何も」
「そうか、じゃあまだ気付いてないのかも知れないね♥」
(クモとクラピカ…
さぁ、ルカ。どうする?
キミならこの悲劇をどう演出するのかな◆)
「ククク…♥」
心底楽しそうなピエロに、イルミが口を挟む。
「良く分からないな。
ルカは旅団員じゃないんだろう?なら、クルタ族云々は関係ないんじゃない?」
「確かにルカは番号持ちじゃない♣
でも彼女にとってクモは家族だ。
…そう言えばキミにも分かるかい?」
「う~ん」
イルミが首を深く傾けた、その時
~♪♪♪~♪♪
軽い電子音とともに、ヒソカの携帯が震えた。
その画面を確認した奇術師が、今日一番の笑みを作る。
(天空闘技場…か♠
あぁ…早く遊んであげなくちゃね♥)