第9章 幕間
「ちょっと、シャルナークいる?」
ドサッと音を立てて、皮の破れたソファに荷物が投げ出された。荷物の次にソファに身体を沈めたのは、たった今、ホームに帰ってきたばかりのマチである。
「あら、お帰りなさい。マチ。
どうしたの?帰ってくるなり」
「ヒソカのヤツから日付指定の依頼が入ったから、急ぎでシャルに足を用意して貰いたいんだけど」
ちょうど紅茶を淹れていたパクノダは、ついでにマチの分も、と白磁に金唐草模様のカップを用意する。
「忙しないわね。
でも残念。シャルならまだ立ち直ってないから、自分でやった方が早いかも知れないわ」
「…まだ?いい加減、鬱陶しいね」
礼を言いながら受け取ったカップに口をつけ、マチは軽く舌打ちをする。
ルカが家出してからこっち、シャルナークはずっと自室に籠りっきりである。
マチが仕事でホームを出たのが2週間前…。
流石に復活していると思ったのに。
「自分の意思で動いているなら、ルカに限って何がある訳でもないだろうに。そんなに心配?」
「そうじゃなくて。
ルカが自分じゃなくて団長に連絡を入れたのがショックなんですって」
「そこ?」
「電話とメール、500件以上したらしいわよ。なのに返信がこないって」
馬鹿馬鹿しいとマチは顔をしかめ、パクノダも同調の意思表示として肩をすくめる。
「2人共、そこら辺にしといてやれ」
苦笑を含む声が2人の会話を引き取る。
見れば、逆十字のコートを手にしたクロロが階段を下りてくるところだった。
「ルカの能力は俺達のアキレス腱にもなりかねない。
外に出す出さないはリスク管理の範疇だからな。シャルも思うところがあるんだろう」
「いや、団長考え過ぎ。
アレは只の過保護だから」
マチの言葉に口角を上げることで応え、クロロは外へと向かう。
「外出ですか?団長」
「ああ、暫く外す。
……戻るまでには出てくるよう、伝えておいてくれ」
「了解」
パクノダの返事を背に、コートを羽織ったクロロは流星街の闇へ消えてく。
「伝えておいてくれ、ね」
パクノダはクスッと笑みをこぼす。
それを横目で捉え、カップに残った紅茶を飲み干したマチは冷たく言い放った。
「放っときな、どうせ聞こえてるんだから」