第9章 幕間
ゴウ…ン、ゴウ…ン
パドキア共和国を出航した飛行船は順調に進んでいる。
窓の向こうに目をやるクラピカは、別れたばかりの少女を思い出していた。
『絶対に無茶しないでね?』
『約束!』
いつも通りの明るい笑顔。
しかし、その笑顔に強い意志を感じた。
(ルカ…)
「…オイ!クラピカ!」
「! 何だ、レオリオ」
「何だじゃねぇよ、シケた顔しやがって。
らしくねぇな」
いつの間に隣にきたのか、レオリオが肩を並べて立っていた。
心ここにあらず、といったクラピカの様子に、軽くため息を吐き出しつつレオリオが続ける。
「らしくねぇと言えば、さっきの台詞もらしくなかったよな。
『次にヨークシンシティで会う時は、キミの話をもっと聞かせて欲しい』だ?
別れの挨拶にしちゃ、意味深過ぎる」
「………」
ルカとの会話を指摘され、クラピカは黙り込む。
「幻影旅団を『クモ』と呼ぶのはヤツらに近しい者、だったか。
クラピカ、お前が気付かないハズない。
…俺が気付いたんだからな」
窓から目を反らし、クラピカは己の口元を隠すように手をやる。
『クモを見つけたら、どうするつもり?』
……そう、確かにルカは幻影旅団をクモと呼んだ。
「…いや、あり得ない。
ルカはまだ11歳の子供だ」
「だから、らしくねぇってんだよ。
ルカが普通の子供じゃないことは分かってるだろう?」
レオリオもクラピカも、短い時間ではあるが、濃厚な時を共に過ごした少女の姿を思い起こす。
年相応にはしゃいでいたかと思えば、ヒソカと互角に闘って見せる。我々よりもよほど能力が高いと見せて、キルアとの再会に涙ぐんだりもする。
「…俺だってルカを疑いたくはないがな」
「ああ、分かってる」
レオリオはクラピカの為を思ってルカに言及したのだ。ハンター試験で得た仲間達は、皆、人の心を慮る優しさを持っている。もちろん、ルカも。
「…私は彼女を信じたいと思う。ルカは笑顔で再会を約束してくれたのだから」
「…そうかよ。
なら、そんなシケた顔すんな!次に会うまでに気合い入れとけ!」
バシ!
レオリオがクラピカの背中を張り、2人は笑いあった。