第3章 貧血
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「薫、次移動だよ」
誰かの声で、ハッと我に返る。いけない、一時間目の間、ずっと朦朧としていた。
「あれ、次って」
「理科室だよ」
……次は理科か。山田先生嫌いなんだよな、と心の中でそっと呟く。けれど顔には出さず、爽やかな笑顔で友達にお礼を言った。
机の中から理科の道具を取り出し、私は立ち上がろうとした。ふと、そのとき。
ぐらん。
「……っ!?」
視界が真っ暗になりかけて、慌てて机に手をついた。それでもまだフラフラする。
この状態で、授業が受けられるだろうか、と少し不安になる。けれど保健室に行く程大事でも無いので、私は机から手を離した。
そして、理科の道具をまとめ、教室を出る。私が最後だったので、電気を消した。
廊下に出ると、教室よりも涼しい空気が私を包む。寒いな、と思った。
ふと、廊下の向こうから体操着を着た生徒がゾロゾロと歩いてくる。あれは……A組とB組か。
私はその生徒の中に、見慣れた彼女を見つけた。
「めぐみっ」
呼ぶと、めぐみはこちらを向いた。真っ黒な瞳と目が合う。思わず頬が緩んだ。
「おー、薫。次理科なの?」
「そうなんだよ」
「山田先生だよねー…あたし、アイツ嫌いなんだよな」
…仮にも先生なのに、『アイツ』なんて呼んでしまって良いのだろうか。そんなことを考えながら、私も、と言ってふっと笑う。
「あ、そうだ、後で地理貸してくれない?教科書忘れちゃってさぁ」
お願い、と言うようにめぐみは両手を合わせる。可愛い、と思った。
それと同時に、頼られているという優越感にも似た感情を覚える。
良いよ、と頷こうとした、そのとき。