第49章 二年後
「ルナ……」
ルナの安らかな寝顔に、君麻呂が呟く。
どうやら、僕の心臓の音には気がつかなかったらしい、と思いながら。
ルナはいつもそう。誘うだけ誘って、本人にその気は全くない。全くの無意識、無自覚。
なんてタチの悪い。
それなのに、憎しみや怒りは全く湧いてこなかった。
普段の余りに天真爛漫な彼女を見ていれば、それは仕方のないことだと思ったから。
彼女はずっと、子供のまま。不完全で、幼いまま。ひび割れた殻の中に閉じ籠って、甘やかな夢に浸っている。
そうしなければ…………壊れてしまう。
ルナ自身もそれを薄々感じているから、だからその亀裂を人の温かみで埋めようとするのだと。
同時に、それが殻から出なければならないときまで自分を守るためだということも、君麻呂は見抜いていた。
それはきっと、彼女の大切な人を…………何かから守ろうとするときなのだろう。
「……うちはサスケか…………」
君が羨ましいよ。
口には出さなかったけれど、それが君麻呂の本音だった。
君麻呂は大蛇丸を愛した。でも、大蛇丸は君麻呂のことをそれほど大切だと思ってはいない。
君麻呂はルナに尽くした。でも、ルナはその誠意を受け取り感謝することはあっても、心を開いてはくれない。
愛されたい。
そう思った直後、君麻呂は少し驚いた。
自分にもまだ、そんな人間らしい気持ちがあったのかと。
思えばこの二年、君麻呂は少し変わった。
前より表情が増えたし、顔つきが穏やかになった。
性格も優しくなり、明らかに丸くなった。
大蛇丸で一杯だった頭の中は、ルナに塗り替わった。
その中には、泣いている顔も笑っている顔もあるけれど、そのどれもが、君麻呂の心のどこかを揺さぶった。
……君麻呂は気がついた。ルナとの出会いが、自分を大蛇丸の傀儡から人間に戻していること。
大蛇丸を崇拝していたときにはなんとも思わなかった全てが、今はとても鮮やかだった。