第48章 奈落へ
「……シスイさん。あなたのせいではありません。どうか自分を責めないで下さい。
それに、シスイさんのそんな顔を見たら、ルナ様が悲しみますよ?」
シスイの辛そうな様子を見かねた李蘭が、そう声をかける。
「ルナ様にとってシスイさんが、どれだけ大切な存在か…………
ルナ様の御心は、シスイさんの存在によっても支えられていたのですよ?
だから……シスイさん。笑って、下さい。あなたが笑っていることが、ルナ様の幸せなのですから。」
李蘭の視線が、言葉が、シスイの心を真っ直ぐに貫く。
その言葉は優しくもあり、勝手でもあった。
あなたは一人の人間としてできることは全てやった、だから気に病むことはない、と慰め。
一方では、ルナのために、罪悪感などという不要なものは捨ててしまえ、というのだから。
ルナに支え、ルナのために生き、ルナに全てを捧げる李蘭だからこそ言える言葉だった。
でも……それでも、今のシスイにとってその言葉は、これ以上ないほど有り難いものだった。
シスイの存在を認め、肯定し、『ルナのため』という免罪符をもって、幸せになることを許す。
罪悪感に苦しむシスイにとって、それが唯一の救いの道であることを見抜いた上で。
李蘭は、はっきりと言い放った。
「うん……そうだな。俺が思いつめたって、イタチやルナが幸せになる訳じゃないものな。
悩んでる暇があったら、二人のために、努力しなくては……李蘭、ありがとう。」
(そうだ……ただ苦しんでるんじゃ、なんの解決にも、贖罪にもならない。
俺は、ルナに……幸せになって欲しいんだ。その方法を模索することに、全力を注がなくては。)
シスイはハッとして、李蘭に礼を言った。
やるべきことをはっきりと見据えたとき。
声はもう、聞こえなくなっていた。