第48章 奈落へ
「…………那由他。しばらくの間塔に篭って、ルナ様の過去十四年間の、全てを見て下さい。
…………記録係は必要ですか?」
「…………いや。必要ねえよ。俺が本気になったときの記憶力……忘れちゃいねぇだろ?」
那由他は頼もしく笑って、任せろと言いたげに胸を叩いた。
実は、那由他の得意分野は、もっぱら暗記なのだ。
李蘭が作り、那由他が記憶する……このようにして神隠れには、幾億の術が蓄積されてきたのだから。
…………まあ、憶える気のあることしか憶えないのが玉に瑕だが。
「そうですか…………そうですね。任せましたよ。」
「…………ああ。俺今まで、全然ルナの役に立ててねぇから……だから、やり遂げてみせる。
ヒントになりそうなことは、影分身にちょくちょく伝えさせる。集会場に誰か、常駐させておいてくれ。」
那由他はそう言って、李蘭の目を真っ直ぐ見つめた。
「……李蘭。お前はお前で、情報収集を続けてくれ。
何しろ十四年分だ。全部見終わったときには、どんくらい時間経ってるかわかんねぇ。
それに、見られるつっても、ルナがあの……私を捜さないで下さいっていう手紙を書く、その前までだ。
それ以降は、ルナの命令に背くことになっちまうからな。
だから…………情報収集を怠らないでくれ。」
「ええ。わかっています。」
那由他と李蘭は、しっかりと頷き合った。
「じゃあ…………行ってくる。シスイ、再不斬、白も、達者でな。」
那由他はそう言うと、飛雷神で神隠れを貫く塔に飛んだ。
神隠れで最も天に近く、集中を必要とする作業に適している場所へ。