第48章 奈落へ
直後に思い出すのは、"あの日"の忌まわしい記憶。
満月を背に電柱の上に立つイタチ。
その両眼に宿る万華鏡。
緋色を濡らしていた雫の意味が、やっとわかったような気がした。
——————サスケ、お前は弱い。殺す価値もないほどにな…………
俺を殺したければ、憎め、恨め!
逃げて、逃げて…………生にしがみつくがいい!
そしていつか、俺と同じ眼を持って、俺の前に来い!
よくよく思い出してみれば、あのときイタチは、両手を後ろにやって、何かを背負っているようだった。
それがルナだったということに、サスケは今更気がついた。
(兄さん……アイツのしたいことはなんとなくわかった…………でも……アンタのしたいことは未だにわからない……
みんなを殺したアイツなんか庇って、何がしたかったんだよ……
…………一族よりも俺よりも、アイツが大事だったとでもいうのかよ………)
哀れなサスケは気づかない。
誰よりも二人に愛され、護られているのは、実は自分だということに。
イタチの幻術から醒めた後目にしたのは、血溜まりの真ん中で横たわる両親。
背中から斬りつけられ、大量に出血した二人の血はもう固まっていて、身体は固く、冷たくなっていた。
それなのに…………二人が浮かべていたのは、苦悶でも憎悪でも悲哀でもなく…………ただただ幸せそうな、穏やかな表情だった。
だが、当時のサスケは、そんなことには気がつかない。
両親の変わり果てた姿を目の当たりにして、絶望し…………深く、深く、イタチを憎んだ。
そして今、ルナに言われるがまま、ルナを憎もうとしている。
それが果たして正しい道なのか、サスケは冷静に判断する力を失っていた。
ここ六、七年、ずっと…………憎しみを糧に生きてきたのだから。
「…………兄さん、姉さん…………」
サスケは記憶の奔流に飲み込まれ、涙で頰を濡らしたまま長い時間を過ごした。