第48章 奈落へ
「…………兄さん……どうして姉さんなんか庇ったんだよ……血も繋がってないのに…………なんで、どうして……」
俺を選んでくれなかったんだ。
それを口に出すことはできなかった。
ここに居もしないイタチに、さらなる拒絶を告げられるのが怖くて。
「…………兄さんも姉さんも、意味不明だ……なんなんだよ…………何がしたいんだよっ!
生きろ、強くなれ、復讐しろって!なんなんだよアンタらは!……俺の気も知らないで!
俺がどんなに…………」
尊敬していたか。好きだったか。信じていたか。
言いたいことは山ほどある。しかしサスケは、一つとしてそれを唇から紡ぎ出すことができなかった。
その感情を認めることは、サスケの存在理由を奪ってしまうから。
「……兄さん……姉さん…………なんで、なんでなんだよ……答えてくれよ…………」
サスケは急に脱力感に襲われて、床にへたり込んだ。
目に浮かぶのは、既に朧げになりかけている、優しく、温かな記憶。
そこにはいつも、ルナとイタチの姿があった。
——————サスケー!ほら、こっちだよー!
思い出せる最古の記憶。ルナと庭で追いかけっこをしたとき。
——————……サスケ。おいで。
アカデミー入学前。イタチに手裏剣の稽古を頼んだとき。
——————一緒に修行しようか。なにやりたい?
湖のあるあの演習場にて。アカデミーに入ってしばらくの頃。
——————許せ、サスケ。また今度だ。
イタチの口癖。
——————サスケ……大好き!ずっとずっと、だよ?
ルナの口癖。
——————おかえり、サスケ。
——————サスケ、おかえりなさい!
"あの日"の直前。アカデミーまで迎えに来てくれたとき。
封印したはずのその全ては、確かにサスケの中に残留して、胸を焦がすような恋しさを生んでいた。
"あの日"起こったことの方を夢だと思いたくなるくらい、その記憶は愛に溢れていた。
残酷なまでに。