第46章 暇乞い
「……っ……うっ……」
(……気持ち悪い…………あーこれ、ヤバイ、吐くっ…………!)
一人になってしばらくして、急に吐き気がこみ上げてきたため、ルナは家路を急いだ。
瞬身で家に帰り、大急ぎで家に入って扉を閉めたルナは、手洗いに駆け込んだ。
「うっ……」
口の中に苦い胃液の味が広がり、やがて、固形物が身体の中をせり上がってくる感覚がした。
胸に何か詰まったように苦しく、浅い息を重ねるのがやっとだった。
「うぅっ……おえぇっ!」
その気持ちの悪い感覚が我慢の限界を超え、ルナは遂に、嘔吐した。
陶磁器に叩きつけられた吐瀉物が湿った音を立て、ルナのか細い呻きを掻き消す。
「……イ、タチ……にい、さ…………うえぇっ……!」
ルナには呟くことすら許されず、二度目の吐き気の波が、容赦無くルナを襲った。
精神が幼く寂しがりやのルナには、昨日今日の暇乞いはあまりに苦行だったのだ。
苦しいならやらなければ良いのに、ルナには暇乞いをやめるという選択肢はなかった。
嘔吐の苦しみからか、それとも蘇った悲しみからか、ルナの目からとめどなく涙が溢れ、ルナの青ざめた頰を濡らした。
それが額から垂れてきた冷や汗と混じって、ルナの顎の先から滴る。
「……ひっく……うぅっ……ひうぅ……うえぇっ…………」
息も絶え絶えで、顔面蒼白のルナに、無慈悲な吐き気が押し寄せる。
その日ルナは、何度も何度も、胃が空っぽになるまで、吐いた。
ようやくそれが終わったとき、ルナはまるで生気を吸い尽くされたようにぐったりして、焦点の合っていない瞳は虚ろだった。
立ち上がろうにも身体に力が入らず、ルナは何度も、身体を起こしては倒れてを繰り返した。
遂には起きる気力すらなくし、ルナはしばらく、床に倒れたまま放心した。