第45章 宴の後
ルナは小雪の最後の小言を聞いて嬉しそうに笑い、かつてのように小雪の背中に腕を回し、そっと抱きしめ返した。
「…………………ありがとうございます、小雪。そう言ってくれたこと、一生忘れません。」
(小雪さん、ありがとう………………私、あんまり自信ないですけど…………でも、あなたの気持ちは、とっても嬉しいです。)
小雪の願いに対するルナの答えは、優しくささやかな拒絶だった。
「そう……………なら、良かったわ。」
(やっぱり、突然変えるのは無理よね…………でも、私なんかの言葉で、レイが少しでも喜んでくれるなら、それで十分だわ。)
小雪は、ルナに拒絶されたことにも、ルナの声に僅かに悲しみが滲んでいることにも気がついていたが、
それが、ルナのどうしようもない闇の表れだとわかっていたため、敢えて突っ込まなかった。
「でも、またいつか………きっと、会いに来ますから。だから……………俺のこと、忘れないでいてくれますか?」
(もう当分会えないから………もしかしたら一生会えないかもしれないから、少しだけ、甘えちゃダメかな?)
小雪から身体を離すと、ルナは寂しさを堪え切れなくなって、小雪を見上げ、そう呟いた。
その赤い瞳には薄い涙の膜が張って、うるうると揺れていた。
「ぶっ…………バッカじゃないの!忘れるわけないでしょ!だってレイ、あなたは私の…………この国の恩人だもの。
遊びに来るのを待ってるわって、言ったでしょ?」
(イヤーッ!そんな………捨てられた仔犬みたいな目で見ないで!離したくなくなっちゃうじゃない!
ああん、もう、レイってなんでこんなに可愛いのかしら!)
小雪はそんなルナにドキリとしながら、黒に覆われた細い身体をもう一度搔き抱いた。
「ふふっ、すみません……………ありがとうございます。」
(小雪さん………ありがとう。大好きです。)
ルナは軽い身体を小雪に預けて、一滴だけ、密かに涙を零した。