第43章 救済は新たな暴虐へ
トンネルの前まで来ると、ルナは誰も見ていないのをいいことに、神通眼を開いて、列車の位置を目分量で測った。
(トンネルまで、約800m…………行ける!)
「……小雪さん、すみません、少し、揺れますよ。」
「……え?ちょ、ちょっと!」
ルナは小さく呟くと、小雪の返事を待たず、トンネルに飛び込み、小雪が耐えられる範囲の速度で走った。
耳元で小雪が何かを言っていたが、聞いている暇は無かった。
トンネルはかなり長く、なかなか出口が見えなくて、ルナは少し焦った。
今の速度で間に合わないようなら、最悪飛龍の術でトンネルの中を飛ばなくてはならない。
流石に、小雪をルナの足の最高速度に晒すのは酷だとの判断の上だった。
(ドトウめ………来たか………三太夫さん達は死なせない!)
ルナは固い意志を胸に、暗い洞窟をひた走った。
(レイ………どうしてわざわざ、汽車より早く洞窟を通過したいのかわからないけれど………
………きっと、なにか考えがあるのよね………)
小雪は皇レイという少年を信用して、自分を任せることに決めた。
(それにしても………いい匂い……なんだか懐かしい感じ………)
ルナの黒い髪が靡いて、微かに漂う甘い香りに、小雪は現在の状況を差し置いて、僅かに安心感を覚えていた。
そして、ルナの疾走の甲斐あって、ルナと小雪は、列車の姿が見える前に、トンネルを通り抜けることができた。
「……っはぁ………あー、疲れた。」
トンネルから出て、小雪を下ろしたルナの第一声だった。
「………ふぅ。レイ、あなた、足速いわね…………流石忍ってとこかしら。
ところで、どうして汽車が来る前にトンネルを抜けたかったの?トンネルの中で追いつかれたら大変なことになるのに……」
雪面に倒れ込んだまま、小雪が不思議そうに訊く。
「すみません、小雪さん。今は時間がないんです!さあ、早く!」
ルナは休んでいる暇がないため、そう言って小雪に手を差し出した。
「え?時間がないって、どういう………」
小雪がルナに、慌てている訳を訊こうとしたとき、カカシがやって来て、それは叶わなかった。