第31章 死の森
「あははははははははっ!来ないなら、こっちから行きますよ!」
ルナが一瞬のうちに移動し、キン・ツチの腕も同じように情け容赦なくへし折る。
「おおっと、君はあいつみたいに叫ばないでね?」
ルナは腕を折った直後、キン・ツチを手刀で気絶させた。
「さてさて、後はぁ……ふふっ……」
そう呟いてドス・キヌタの方を見たルナの目は凄惨な狂気に彩られている。
楽しい、楽シイ、タノシイ。
ルナは今や、音忍を痛めつけることを楽しんでさえいるように見えた。
いや、実際楽しんでいた。
元暗殺者のルナは平生からのルールとして、『殺すときは瞬殺、不毛な暴力は加えない』というものを掲げていた。
しかし、そのルールの中では味わえない快感に、ルナは密かに恋い焦がれていた。
今、そんなルナの目の前にいるのは、どれだけ傷つけても心が痛まない、いわば究極にどうでもいい敵。
普段嗜虐心を封印しているルナにとって、これは欲望を吐き出す絶好のチャンスだった。
…………ということに本人は気がついておらず、ルナはただ、身体の奥を焦がす破壊衝動に身を任せていた。
サスケの脳裏に、波の国でガトー軍団を屠ったルナの姿と、ルナが密かに流した涙が蘇った。
(レイ、アイツは……仲間のためなら、殺しでも何でもやる。
そうすることに全く躊躇いは無いが、好きでやってる訳じゃなかった……でも、今は……
……あんなの、レイじゃない!)
このままでは、皇レイという少年がどこか知らないところへ行ってしまう。
ルナが醸し出す残酷性への恐怖を、今までのルナを失うかもしれないことへの恐怖が上回る。
サスケは、ルナを止めなくてはと思ったが、すぐには足が動かなかった。
(俺は……恐れているのか?レイのことを?俺達のために敵を迷いなく殺したレイのことを?
……確かにレイは俺なんかより遥かに強い……でも、俺が止めるしかない!)
いつもの優しく穏やかなルナを取り戻すため、サスケは己の恐怖心を払い、力を振り絞って駆け出した。