第28章 子守任務
ぷくぷくぷくぷく…………
ルナの口が湯船の中に沈み、水面に泡を作っていた。
泡が弾けるぱちぱちという音が、かれこれ数分は続いている。
いい加減息が切れそうなものだが、ルナは微睡んだまま、小さな気泡を吐き続けている。
起きているのか寝ているのかもわからない半開きの瞳は、底無しに暗かった。
「…………レイ!ここで寝るのはやめろ。窒息するぞ。」
カカシはルナの首の後ろに手を当てて頭を持ち上げ、水中から出した。
「………すみません。わかりました。」
ルナは嫌に素直に湯船から上がると、ふらっとよろめいた。
それをカカシが支えた。
「……………っと。危ないじゃないの。体調でも悪いんじゃないの?」
「いえ、そんなはずは……俺、生まれてこのかた、病気したことないんですよ。」
ルナはそう言ってカラカラと笑った。
その笑みは目まで届いていなかった。
「………………多分、のぼせたんですよ。俺、もう上がりますね。」
ルナはカカシを置いて、素早く脱衣所に向かった。
カカシはルナが去った後も、少しの間湯に浸かっていた。
(………ごめんなさい、か………レイは一体誰に謝っていたのやら。それもあんなに………
……ストレスコントロールが苦手だと言ってはいたが、これほどとは………)
カカシはルナが波の国で見せた、冷酷で残忍とも取れる性格と、時折顔を出す脆さや優しさとのギャップに、素直に驚いていた。
(やっぱり、レイには何かがあるのか………卒業試験直前に転校、ってのも、作為を感じるし………
だが、火影様の遠縁だ、根掘り葉堀り訊く訳にも………………)
カカシは、今度何かあった時には、ヒルゼンに訊いてみようと思った。
しばらく月を眺めると、カカシは風呂から出た。
部屋に戻る途中、ルナとサスケの部屋を覗くと、ルナはちゃんと布団で寝ていたので、少しホッとした。
それが影分身だとも知らずに。
本体のルナは、屋根の上に登り、夜明けまで呆けていた。