第1章 まぼろし
東京に帰ると、ヤツから会いたいと連絡が来た。
「…何?いきなりどうしたの?」
俺の部屋に入ってきたヤツを眺める。
「いや?潤とちょっと、会いたくなっただけ。」
「あ、そう…」
ヤツがコートを脱いで、コート掛けにかける。
「最近、ごめんね?全然いけなくて。」
リビングのドアに立ってる俺をチラッと振り向いたヤツは
「いや、別に…」
「どしたの?潤、元気ないね。」
じっと深い色をした瞳をこちらに向ける。
「…そんなことないけど?」
「うまくいってないの?好きな人と。」
ヤツの鋭い眼差しが、俺を射抜こうとする。
うまくなんて行かないよ。
うまくいったことなんて、一度も…
「潤、いってないでしょ?」
「へ?」
「だから。その相手に、ちゃんと伝えてないでしょ?」
…図星。
「もう…」
「なんだよ…」
ヤツが、俺の背中に手を添えた。
「潤…ちゃんと言わなきゃ…」
「…無理だよ…」
「ダメだって。ちゃんと言わなきゃだめだって!」
「うるせぇよ!お前に何がわかるんだよ!」
「わかるんだよっ!」
…ヤツが、声を荒げた。
「わかるんだよ。僕には」