第1章 まぼろし
朝まで、ほとんど眠れなかった。
いきなり、手に入りそうだった貴方がいなくなったのだ。
手持ちぶさたになって、ドームに早く行くことにした。
スタッフとか、誰かいてくれた方が、落ち着くから…
多分。
ホテルとドームを結ぶ地下道で、警備員の人に関係者証を提示していたら
ドーム側から、マネたちが群がって歩いてくるのが見えた。
「あれ?ニノ。早いね」
チーフが一番に気づき、声をかけてくる。
「うん、なんか眠れなくて。」
でも、マネたちはみんな、どこかに電話をかけたりしてて。
「何、どうしたの?」
チーフだけにこそっと聞くと、難しい顔をされた。
「後でゆっくり話があると思うけど」
チーフの話は、あまり受け入れられるものでもなくて
ドームに行って、貴方が居る楽屋にも入れず
楽屋の前のソファでただ、座ってた。
カツカツという無機質な音が廊下に響いて
「二宮」
顔を上げると、そこには副社長がいた。
「あ…はよざいます」
「話、聞いたのね」
「あ、まぁ」
「松本の件、どうするの」
「どうすうるって…」
「あんたしかいないのよ?」
「へ?」
「全部知ってるのよ」
副社長がじっと俺を見つめた。
「あの記事を週刊誌に出さないためには、大事になる前にあんたが止めなさい」
「え…載らないんですか」
「潰せたわよ、今回は」
「…わかりました」