第1章 まぼろし
今日は一ヶ月ぶりのツアーで地方に来てる。
明日、夜の公演がある。
いまはリハ終盤で、他のメンバーはホテルに先に帰っていて。
俺と貴方とスタッフさんで、俺のソロの詰めをしていた。
「じゃあニノ、最後もっかいだけサビもらっていい?」
バクステから飛んでくるマイク越しの貴方の声。
「はーい了解」
音楽が流れ出して、踊りだす。
どこかから感じる貴方の視線。
“声を聴かせて”
違うよ。
“前を向けるよう”
忘れたいんじゃないんだ。
”世界に閉じ込められないよう”
俺は、貴方を。
“いつだって足掻き苦しむんだ”
貴方を手に入れたいんだ。
“声を聴かせて”
貴方も。
“明日に行けるよう”
貴方を感じさせて。
“考えつく全てに僕らは”
貴方を手に入れられるように、
“考えていかなきゃいけないんだ”
ちゃんと、考えたから。
「ニノ…?」
リハの帰り。
ホテル内のエレベーターで二人になった俺たちは
「んんっ…ちょっ…」
何を目指したのだろう。