第1章 まぼろし
「何で?」
「え…だって、人はみんな、いつ死ぬかわからないんだよ?」
死ぬ?
何でまた、いきなりそんなこと…
「潤にだけは、言おうって思ったんだけどさ。」
「うん?」
「俺ね。昔、好きだった人がいたんだ」
ヤツの話は
俺の心を揺さぶるには十分すぎるほど切なくて、
話を聞きながら、
俺の見ている景色がどんどん色をなくしていくような
俺が過ごしてきた時間なんて
こいつには敵わないなって
そんな気がするほど、胸が痛むものだった。
「潤、あのね…」
泣きもせず、取り乱しもしなかったヤツが
俺の瞳を見ながら静かに言った。
「伝えられることは、伝えられる時に絶対に伝えなくちゃいけないんだよ。
伝えようと努力して、初めて伝わるものなんだもん。
でも、そんな努力をしたって、真実が伝わるかなんてわからないんだ。
伝えようとしてる人の真実は、 伝えられる側の真実じゃないから。
でも、伝えなくっちゃならないんだ。 頑張ってさ…
それができる時間なんて少ししかない。
伝えられる時に、精一杯のことを伝えなきゃ…」
いつもの生意気なヤツじゃなかった。
いつものヘラヘラしたヤツじゃなかった。
一人の人間として、
ヤツは俺に、ヤツの真実を伝えようとしてくれたんだ…
「わかった…ありがと」
「潤が泣いてどうすんのよ…」
いつか振り返ったとき
絶対に後悔しないように。