第1章 まぼろし
かずは、何も言わなくなった。
怒りからくるものなのか、腕のなかでずっと小刻みに震えている。
強く、強く抱き締める。
分からないんだ…俺も。
どうしたら良いのか。
どうしてこんな事になってしまったのか。
かずをこんな目にあわせてしまって、本当に申し訳ない…
それでも、伝えたいんだ。
俺が本当に愛してるのは、かずだけだって…
「ごめん…」
ぎゅっと抱き返される。
「ごめん…」
俺の肩に、コテンとかずの顔が載る。
そこから、冷たい涙が染み込んでくる。
泣く声。震える背中。
抱き返してくる、腕の力。
どうしてこんなにも愛おしいのだろう。
いつからだろう。
かずをこんなにも、愛しいと思えるようになったのは。
「かず、好きだよ…」
そう行った途端、かずは俺を突き飛ばした。
「ウソだ!そんなの…そんなの…」
そう言ってまたかずはワッと泣き出して。
その場でうずくまってしまう。
「違うよ…かず…」
上から、覆うようにかずを再び抱き締める。
「ごめん…ごめん…」
「俺が愛してるのは、かずだけだから…」
俺のやってきた行動が間違ってるのは分かってる。
でも、俺が愛するのはかずだけだって。
抱きしめる強さから伝わるように。
それが、今の俺に出来る、
せめてもの償い…