第6章 左眼の隻眼
涙を流し雨の地面に膝をついた私の潤む視界の中に
ピチャピチャと音を立てて黒い靴が踏み込んできた。
「お父さんお父さん、うっせぇんだよ」
どこかで聞いた強がったような声にゆっくりと顔をあげる。
「…絢都君…」
見上げると絢都君は雨の中近くのコンビニで買ったような…いや奪ってきたのか透明傘をさして私を冷たく見下ろしていた。
「帰んぞ」
「はっ?」
ふと力の抜けた返事をする私に絢都君は「はぁ?」と力強く顔を歪めた。
「帰るって…どこに?」
「アオギリにきまってんだろが」
「…嫌だよ」
絢都君に逆らうなんてほど怖いものはないが、それも承知で顔を背けて言い放った。
「チッ…てっめぇ…俺に盾つく気か?あぁ?!
ちょっと自分の方が強かったからって調子のってっと殺すぞ」
「違うよっ!!私は…アオギリになんて馴染めない!!居たくない!!私は…私はッ…あんたら喰種じゃないッッ!!」
静かな街には不自然なほど大きい叫び声だった。
短い沈黙を破ったのは絢都君の嘲笑うような声だった。
「なんだそれ、まるで自分は人間みてぇな言い方だなァ」
まさか、と思った。絢都君の言い方からしてまるで私を喰種だとわかっているような。
「てめぇは、隻眼の喰種だろ?」