第6章 左眼の隻眼
ザー
降り止む事のない雨。
真っ暗で人の居ない街。強い風。
ただ一人立ち尽くしていた。
ちょうど10年前、お父さんはここで殺された。
お母さんの同僚に、殺された。
幼い私はただ…お母さんと見つめていた。
『お母さん…お父さんが……』
『黙りなさい。あなたまで喰種だって…ばれるでしょう』
かすれた小さな声で同僚に聴こえないように母は私に強く言って手を握った。
『…早瀬じゃないか!』
『…えぇ。ちょうど娘の迎えに行ってまして…』
『そうか…。こっちはまだ仕事中でな。…悲惨なところを見せてしまったな。しかも、
喰種の殺される姿なんて。』
『いえ…。こちらこそ、すみませんでした。娘も同様していますので…今日は…』
『あぁ…。ごめんね!お嬢ちゃん!!』
黙れ…。黙れッ!!
母は涙さえ出ない状態でずっとまっすぐ歩いた。私の手を握ったまま、その力は弱々しく抜けていった。
何メートルもあるいたところで母は音を立てるようにして崩れた。
『うぅ…ううっ…あぁぁぁぁ…!!!』
『…おかあさん…』
母はいつものように整った髪をぐちゃぐちゃにして泣き崩れた。
あの日と同じ悪夢が今日も降り注いだ。
「お父さん……いかないで…」