第5章 捨てるもの
そしてその肉を血だらけの手で握って娘の口に近づけた。
「早く・・・喰べなさい…」
娘は肉をじっと見つめてお腹を鳴らした。
地獄のような空腹に娘に意思はなくなってしまった。
そっと肉を受けると口に入れ、安心したように喰べた。
そして娘は狂ってしまった。
真っ赤な眼を輝かせて私を見下ろした。
ほんの少し逃げ出したくなった。
でも…逃げてはいけない。
「…イタダキ…マス。」
そう言って私は…無くなった。
少しずつなくなっていく私の肉。
痛いという域はとっくの前に超えていた。
ただ…
骨しか残らない私。
その私を見て、娘はどう思うだろうか。
自分が自分の母を喰べたと知ってこの子はどう思うだろうか。
辛いだろうか…。
ずっと娘の心配をした。
神様…どうか、お願いします。
この子を自分が母を喰べたという事実で苦しめないでください。
どうか…どうか…生きて。