第3章 彼らの心
ガタン…ガタン…
クインケを入った重たい鞄。
揺れる電車で不安定になるヒール。
混んではいないが空いていない席。
(こ、こけそう…!!)
ガタン!
「?」
目の前に座っていた男性が立ち上がった。
「あのぉー…良かったら座ります?」
男性は目を月目にして席を指差した。
「いや…お構いなく…」
「だーめですってぇ!!めっちゃ重そうじゃないっすか!ねっ…どうぞ?」
「…では、遠慮なく」
「どうぞどうぞ~♪」
私の視界に彼の手元が映った。
彼だって重そうな鞄。3つの買い物袋を持っている。
なのに…私に席を…。
じっとその買い物袋を見つめていた。
「俺、料理超下手なんすよ」
「え…。そうなんですか?」
「ハハ。職業はカフェ店員なんでね。コーヒー以外にも料理できなくっちゃっしょ?だから練習のためにまとめ買いってやつです!」
(まとめ買いの使い方、ちがう)
そう言ってヘラっと笑う彼になぜか私も笑が浮かんだ。
「そうなの?最近では男のヒトでも料理できなきゃですよ」
しまった…と思った。
他人には必ずや敬語を使うよう心がけていたこの自分が
タメ口を…。
「あはっ!なんか堅苦しいヒトかと思ったけど笑うんすねぇ!!」
「そ、そんな…っ!!わ、笑わないです…」
なぜか頬が赤くなる。
それを隠すために必死で短い髪の毛をとくフリをした。
「可愛いじゃん!笑ったほうがいいよ?女の子は!そうだっ!よかったらさぁ…メアド交換!!」
「メ…アド?」
「うんっ!料理とか教えてよ」
「…はい、いいですよ」
彼と初めて話したのに
なんだか懐かしい感じがする。
なんだか…笑が浮かんでくる。