第19章 黄瀬涼太 【R18】
「……ね、結」
ツンデレの恋人に鍛えられた忍耐力にも限界がある。
「そろそろオレも……結のナカ、挿っていっス、か」
引き抜いた指をぺろりと舐めると、答えを待たず、枕元に常備してある避妊具に伸ばす腕は夜の営みのルーティン。もっともそれは夜に限ったものではないが。
リビングや洗面台、念のためにとキッチンにも忍ばせてあるアイテムの在庫管理は黄瀬の担当。
ハイペースで消費されていくゴムの次の注文を頭の片隅で考えていた黄瀬は、「今日は……その、だいじょうぶ……だから」という消え入りそうな声に、自分の耳を疑った。
夢でも見ているのだろうか。
「……ダイジョーブって、何?」
いや、本当は分かっていた。今が現実だということも、その言葉が何を意味するのかも。
「わ、分かんないなら……も、いいデス」
さすがに言葉にする勇気はないのだろう。
絶頂の余韻を漂わせながら、ぷいとそっぽを向いてしまった横顔に、黄瀬は生唾をゴクリと飲みこんだ。
「それ……って、ナマでハメてもいいってことっスか」
「っ、コトバ!言葉、選んでください!」
「イテっ!」
ピシャリとはたかれた額をさすりながら、唐突に訪れたこの瞬間を幸運と捉えるべきか否か、頭をフル回転。
彼女のことを思うなら、少しでもリスクのあることは避けるべきなのは分かっていた。
刹那的な快楽に駆られて、一番大切なヒトを傷つけることは絶対に出来ないし、するつもりもない。
「もー、ヒドいっスよ。今日はオレの誕生日なのに」
「で、デリカシーのないこと言うからですっ!」
「そこは素直って言って欲しいっス!」
すでに日は変わっていることを棚に上げ、ピーピーと泣き真似をする姿は、写真集を何万部売上げる人気モデルとはとても思えない。
だがその顔は、最先端のファッションをまとい、スポットライトを浴びて周囲の視線をくぎづけにするどの表情よりも自然体で、美しかった。
「ったく。オレをシバくのは、センパイと結くらいっスよ。それも手加減なしで」
「今もシバかれてるんですか?でも、躾は必要なので仕方ないかと……」
「犬じゃないってば!」
キャンとひと鳴きし、キングサイズのベッドの上でじゃれあいながら、黄瀬は欲望と理性の間で揺れる心を落ち着かせるように、大きく息を吸いこんだ。