第15章 黒尾鉄朗 【R18】
「──ハイ」
小さく舌打ちした後、受話器を手に取り、平然とした顔で応対しながら腰を揺らす彼の頬をつたう汗が、ポタリと落ちて肌を焦がす。
こんなにも気持ちいいのは、単にカラダの相性がいいだけなのだろうか。
(ううん、わかってる……ホントは)
ただ認めたくないだけなのだ。
いい年をした大人だって──いや、大人だからこそ、一歩踏み出すには勇気がいる。
同じ職場ならなおのこと。
でも今は、胸をチクリと刺す痛みを忘れるほどの快楽の波に溺れさせて。
「くろ、お……っ」
もっとと続きをせがむように、がっしりとした腰に足を絡めれば、「あー、延長で……いや、今から泊まりに変更できます?」とリクエストする声に、身体の奥からあらたな泉が湧きだす。
男のくせに色気たっぷりの声も、狡猾な瞳も、ツンと立ったヘアスタイルも、全部好き。
「さて、と」
受話器を戻し、上唇をペロリと舐める仕草に、今からはじまる情事の果てを想像して、濡れた肌がざわりと粟立つ。
もちろんそんなことはおくびにも出さないが。
「勝手に……泊まりにしないでくれる?明日の服、どーすんのよ」
「俺は会社に替えのネクタイ常備してるから平気だし」
「なっ!自分だけズルい!」
「賢いって言ってくれる?つーかさ、盛りのついたメス猫をほっとけるわけねぇだろ?」
「う、うるさい。いいから早く、っん、あぁ……っ!」
肩に両足を担がれて、さらに深く交わろうとする腰にガツガツと奥を穿たれて、はしたなく喘ぐ自分にもう羞恥心は感じない。
「ほら。ココ……だろ?オマエのイイとこ」
「う、ん……気持ち、い」
「その顔、すんげーエロい」
「ア、あっ、やぁ……っ、それスゴい、も……イ、っちゃう」
好き
いまさらそんなコト、言えるわけないけど
「ハ、心の声、漏れてんぞ」
「え……?な、に」
「ホント、可愛いやつ」
「バ、カ……冗談やめてよ、ア、や……いきなり、っん、激し……っ」
甘い声に主導権を奪われないように、目の前のぶ厚い胸板を打ちつけた手を呆気なくシーツに沈められ、距離をつめてくる唇が口角をあげる。
「やめてもいい、のか?」
やめないで、という声を飲みこむのが精一杯。
手のひらを這うゴツゴツとした指に、自分の指を絡ませながら、結はゆっくりと目を閉じた。